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ボクの『桔梗が丘』

ネットでニュースを見てたら平井堅が郷里を唄った『桔梗が丘』という新曲を出したという。ふと見たアルバムジャケットを見たら、非常に懐かしく感じてしまった。

桔梗が丘

桔梗が丘

二十歳になり初めて社会人になり入社したパッケージ会社ですぐさま新人研修という名の下に工場研修に行かされその工場の脇にある寮で約ニヶ月ほど寮生活をしたのだが、その時の場所が伊賀忍者で名高い三重県伊賀上野という場所でした。私は関東産まれ関東育ち、初めて行った関西地方がこの伊賀上野、まさに田園風景なザ・田舎、初めて親元を離れたことも、社命という不可抗力で縁もゆかりもない土地に来たということも初めての経験でした。

ただ住めば都というのはなんとやらで、今じゃコンプライアンスうんぬんかんぬんでありえないのだが、自由に使っていいといわれた会社のワゴンを夜な夜な乗り回し、生まれて初めてホタルを見たのは青山高原、夜中小腹が空いてコンビニに行くのに20分掛かったのもいい思い出。そういえば関東には全くなかったココイチ食べたのもここに居た時でした。当時、バツイチ三十半ばの鹿児島出身の寮長さん、といっても寮長と私の2名で5、6部屋ある広めな平屋の寮に住んでいました。私は都会育ちとはいいませんが急激な田舎暮らしに慣れず、週末に大阪でふらふらしながら都会の空気を吸うと落ち着いたせいか毎週大阪に出かけていましたが、寮長に週末に大阪へ行くために都合の良い直通急行が止まるこの桔梗が丘駅によく送ってもらい、帰りも桔梗が丘駅に迎えに来てもらいました。今、考えてみるとなんとも申し訳ない話ですが。

とある休日、滞在中一回だけ寮長さんが泊りがけで大阪で暮らすのお姉さんの姪に会いにいくと、私がその会社のワゴンで桔梗が丘駅まで送ったことがありました。20年前にカーナビやグーグル・マップなんてあるわけもなく、帰りは地図を見ながら土地勘もない三重の片田舎で迷いながら誰もいない静まり返ったインキ臭い寮につき、名阪国道にほど近いために田舎の割にはロードノイズがうるさい中、寮長が「自由に飲んでかまへんよ」といった決して切れることがなかったビールを飲みながら、駐車場にブルーシートを広げ寝転がり星空を眺めたことを思い出しました。とりあえず現状を受け入れ毎日をインキまみれになる毎日、縁もゆかりもない伊賀上野でこの先人生どうなるんだろうと不安に思った若き日を思い出しました。

でも、実際の唄はそんなことは関係ない平井堅がふるさとを切々と唄う唄なのです。だけど私にとっての「桔梗が丘」は社会人人生の出発点であり、なぜか桔梗が丘駅の表示看板をみると若い頃の不安や希望に満ちた揺れる淡い感情を思い出す、そんな若い頃の淡い感情や初心を思い出させてくれたこの曲、そしてアルバムのアートワークに感謝でした。